2025年1月9日木曜日

 【夜明け前拾い読み-7】

~桜田門外に果てた井伊大老の功~
安政の大獄で攘夷派をことごとく排斥したのが井伊大老です。
国学の徒である主人公にとっては言わば天敵なのですが、藤村は以下のように評価もしています。
こういう所は単なる思想家ではなく、馬籠宿で民間人として日々現実に向かい合った影響かもしれません。
実は主人公青山半蔵は藤村の実父をそのままモデルにしているようです。
以下本文抜粋しました。
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外国 交渉 の こと にかけて は、 天朝 の 威 をも 畏れ ず、 各 藩 の 意見 の ため にも 動かさ れ ず、 断然 として 和親 通商 を 許し た 上 で、 それから 上奏 の 手続き を 執っ た。 この 一事 は 天地 も 容れ ない 大罪 を 犯し た よう に 評する もの が 多い けれども、 もし この 決断 が なかっ たら、 日本国 は どう なっ たろ う。 軽く 見積もっ て 蝦夷 は もとより、 対州 も 壱岐 も 英米 仏 露 の 諸 外国 に 割き 取ら れ、 内地 諸所 の 埠頭 は 随意 に 占領 さ れ、 その 上 に 背負い 切れ ない ほどの 重い 償金 を 取ら れ、 シナ の 道 光 時代 の 末 の よう な 姿 に なっ て、 独立 の 体面 は とても 保た れ なかっ た かも しれ ない。 大老 が この 至険 至難 を しのぎ 切っ た のは、 この 国 にとって の 大功 と 言わ ね ば なる まい。 こんなふうに 言う 人 も あっ た。
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 【夜明け前拾い読み-6】

~井伊大老の下で安政の条約を草案・交渉した岩瀬肥後~
渡来人をただいたずらに「悪」と非難するだけでなく、冷静にファクトを見ていけばこういう状況もあったということですね。
しかし興奮して声だけ大きい人が主導すれば今の「報道しない自由」のように隠れてしまいがちですね。
岩瀬肥後は幕府でも位は低い方ですが、こういう人が危機を救うのが日本人の特色であるような気がします。
以下本文抜粋しました。
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条約 交渉 の 相手方 なる ヨーロッパ人 が 次第に 態度 を改めて 来 た こと をも 忘れ ては なら ない。 来るものも来るものも、 皆 ペリイ の よう な 態度 の 人 ばかりでは なかっ た の だ。 アメリカ 領事 ハリス、 その 書記 ヒュウスケン、 イギリスの 使節 エル ジン、 その 書記 オリファント、 これら の 人 たち は いずれ も 日本 を 知り、 日本 の 国情 という もの をも 認め た。中 には、 日本 に 来 た 最初 の 印象 は 思いがけない 文明 国 の 感じ で あっ た とさえ 言っ た 人 も ある。 すべて これら の 事情 は、 岩瀬 肥後 の よう に その 局 に 当たっ た 人 以外 には 多く伝わら ない。
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 【夜明け前拾い読み-5】

~神奈川での英国商人との取引打診~
主人公と同郷の商人が外国人との取引に「旨味」を感じた場面です。
混乱する幕府や一般庶民とは対照的に描かれていますね。
以下本文抜粋しました。()内は私の注釈です。
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「糸目 百 匁 あれ ば、 一両 で 引き取ろ う と 言っ て い ます。」   この 売り込み商の言葉 に、 安兵衛(美濃の生糸売り商人)らは 力 を 得 た。 百 匁 一両 は 前代未聞 の 相場 で あっ た。   早い 貿易 の 様子 も わかり、 糸 の 値段 も わかっ た。 この 上 は 一日 も 早く 神奈川 を 引き揚げ、 来る 年 の 春 までには できるだけ 多く の 糸 の 仕入れ も し て 来よ う。 この こと に 安兵衛 と 李 助 は 一致 し た。 二人 が 見本 の つもり で 持っ て 来 て、 牡丹 屋 の 亭主 に 預かっ て もらっ た 糸 まで 約束 が でき て、 その 荷 だけでも 一個 につき 百 三十 両 に 売れ た。
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 【夜明け前拾い読み-4】

ペリー黒船の横暴さを惜しむ藤村自身の述懐に思えます。
日本民族の争いを好まず外来者への柔軟性を訴えるいかにも国学の徒らしいものですが今後の軋轢を想起させますね。
以下本文抜粋しました。()内は私の注釈です。
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異国 ─ ─ アメリカ をも ロシヤ をも 含め た 広い 意味 での ヨーロッパ ─ ─ シナ でも なく 朝鮮 でも なく インド でも ない 異国 に対する この 国 の 人 の 最初 の 印象 は、 決して 後世 から 想像 する ような 好ましい もの では なかっ た。   もし 当時 の いわゆる 黒船、 あるいは 唐人 船 が、 二本 の 白旗 を この国の海岸に残して 置いて行く(降参するならこの旗を掲げよという意味) よう な 人 を 乗せ て 来 なかっ た なら。 もし その 黒船 が 力 に 訴え ても 開国 を 促そ う と する よう な 人でなし に、 真に 平和 修好 の 使節 を 乗せ て 来 た なら。 古来 この 国 に 住む もの は、 そう 異邦 から 渡っ て 来 た 人 たち を 毛 ぎらいする 民族 でも なかっ た。 むしろ それら の 人 たち を よろこび 迎え た 早い 歴史 をさえ 持っ て い た。 シナ、 インド は 知ら ない こと、 この 日本 の 関する かぎり、 もし 真に 相互 の 国際 の 義務 を 教えよ う として 渡来 し た 人 が あっ た なら、 よろこん で それ を 学ぼ う と し た に 違い ない。 また、 これ ほど 深刻 な 国内 の 動揺 と 狼狽 と 混乱 とを 経験 せ ず に 済ん だ かも しれ ない。 不幸 にも、 ヨーロッパ 人 は 世界 にわたって の 土地 征服者 として、 まず この 島国 の 人 の 目 に 映っ た。「 人間 の 組織的 な 意志 の 壮大 な 権化、 人間 の 合理的 な 利益 の ため には いかなる 原始的 な 自然 の 状態 に ある もの をも 克服 し 尽くそ う と いう ごとき 勇猛 な 目的 を 決定 する もの」 ─ ─
それ が 黒船 で あっ た の だ。
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 【夜明け前拾い読み-3】

江戸にて無事に平田一門の門徒に認められましたが、両国の宿寝床にていささか不安を感じていたようです。
以下本文抜粋しました。()内は私の注釈です。
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あの 鉄胤(平田篤胤の直接の弟子)から 古学 の 興隆 に 励め と 言わ れ て 来 た こと を 考え た。 世 は 濁り、 江戸 は 行き詰まり、 一切 の もの が 実に 雑然 紛然 として 互いに 叫び を あげ て いる 中 で、どうして 国学者 の 夢 などを この 地上 に 実現 し 得 られよ う と 考え た。 「自分 の よう な 愚か な もの が、 どうして 生きよ う。」
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 【夜明け前拾い読み-2】

旅の途上塩尻の手前あたりの追分宿で見せられ、騒然とした事の重大性を肌で感じた場面です。
以下本文抜粋しました。()内は私の注釈です。
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ある 松代の藩士から 借りて 写し取っ て 置い た という もの で あっ た。 嘉永 六 年 六月 十一 日付 として、 江戸 屋敷 の 方 に いる 人 の 書き送っ た もの で、 黒船 騒ぎ 当時 の 様子 を 伝え た もの で あっ た。
さて、 この たび の 異国 船、 国名 相 尋ね 候 ところ、 北 アメリカ と 申す ところ。 大船 四 艘 着船。 もっとも 船 の 中 より、 朝夕 一 両度 ずつ 大筒 など 打ち放し 申し 候 よし。 町人 並びに 近在 の もの は 賦役 に 遣わさ れ、 海岸 の 人家 も 大方 は うち つぶし て 諸家 様 の お 堅め 場所 となり、 民家 の 者 ども 妻子 を 引き連れ て 立ち退き 候 も あり、 米石日に高く(コメの値段が上がる)、 目 も 当て られ ず。 実に 戦国 の 習い、 是非 も なき 次第に これ あり 候。 八日 の 早暁 に い たり、 御触れ の 文面 左 の 通り。
一、 異国 船 万一 にも 内海 へ 乗り入れ、 非常 の 注進 これ あり 候節 は、 老中 より 八代 洲 河岸 火消し役 へ 相 達し、 同所 にて 平日 の 出火 に 紛れ ざる よう 早鐘 うち 出し 申す べき こと。
一、 右 の 通り、 火消し役 にて 早鐘 うち 出 し 候 節 は、 出火 の 通り 相 心得、 登城 の 道筋 その他 相 堅め 候 よう いたす べき こと。
一、 右 について は、 江戸 場末 まで 早鐘 行き届か ざる 場合 も これ ある べく、 万石 以上 の 面々 において は 早 半鐘 相 鳴らし 申す べき こと。
右 の おもむき、 御用 番 御 老中 よりも 仰せ られ 候。 とりあえず 当地 の あり さ ま 申し上げ 候。 以上。
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 【夜明け前拾い読み-1】

まだまだ序盤ですがボチボチ感想を含めて私なりのポイントをご紹介したい。この大作の薄っすらとした影なりとも感じていただければありがたい
主人公青山半蔵は賀茂真淵→本居宣長→平田篤胤の流れを汲む国学(彼の呼び方では古学)を学んでいる思想家ではあるが、現実には信州馬籠宿で本陣・庄屋役なので日々忙しく働く地元名士の民間人です。
時代はペリー黒船来航より西南の役までらしい。
以下友人への手紙より本文抜粋しました。()内は私の注釈です。
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「君 に よろこん で もらい たい こと が ある。 自分 は この 旅 (信州ー江戸ー相州三浦)で、 かねて の 平田 入門 の 志 を 果たそ う と し て いる。 (途中省略) 本居、 平田 諸 大人 の 国学 ほど 世 に 誤解 さ れ て いる もの は ない。 古代 の 人 に 見る よう な あの 直ぐな心 は、 もう一度 この世 に 求め られ ない ものか。 どうか し て 自分 ら は あの 出発点 に 帰り たい。 そこ から もう一度 この世 を 見直し たい。」
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黒船来航からの混乱を国学の視点から見直そうとしているらしい
これは島崎藤村の考えでもあるように感じました。